1/10ページ目 綾瀬先生はグスグスと鼻をすすり、醐留権先生の隣で泣いていた。 一見したところは悩み相談室だが、本当のところは限りなく騒音に近い独り言となっている。 「弟にいつの間にか彼女がいたなんてっ……知らなかったんですよ!ショック!」 昨日の出来事を尋ねてもいないのに事細かに話した綾瀬兄は、愚痴タイムへと突入していた。 弟に対する行動はストーカーに値する上に他のアパートの住人の迷惑となるため、醐留権先生は110番をすべきかとも悩んでいるが現行犯でないのでできなかった。 いっそのこと自分の手で裁いてしまおうかとも、考えている。 「最近、弟の態度が以前にも増して冷たくなったのも絶対彼女のせいですよ!お兄ちゃんショック!」 白い木綿のハンカチを握りしめて、綾瀬兄はずっと泣いている。 ハンカチは涙を拭くための道具ではなく、握りしめるための道具のようだ。 以前から冷たくされているとわかってはいたんだな……と思った醐留権先生は、自分の兄よりは数ヨクトメートルましだと思った。 すなわち、どっちも全く受け付けられない兄ということだった。 「お兄ちゃんのことが宇宙で一番、大好きなはずなのに……!」 またしても空想上の弟からの愛情を勝手に創造した綾瀬兄は、びえーんと喧しい泣き声を上げた。 1ヨクトメートルも同情できないゾーラ先生は、ここで初めて、声を掛けた。 「綾瀬先生はご結婚をされてらっしゃいますよね?もし、弟さんが、「弟の僕のことが宇宙で一番好きなんだから結婚はしないで」と泣いて懇願してきたら、結婚はしませんでしたか?」 と。 逆の立場に置き換えて、考えさせる作戦に出た。 「え?それは無理です。」 逆の立場に置き換えることなく、綾瀬先生はあっさり白状した。 「この大馬鹿者めが!そこに座りなさい!」 「は、はいっ!」 ついに醐留権先生は、キレた。 綾瀬先生は言われた通り、床に正座をする。 あらまあ……といった眼差しを送る他の先生方は、パワハラとは違う正当性をひしひしと感じていたので単なる説教だと捉え何も介入せずにおいた。 「身勝手も甚だしい!自分は結婚してもいいのに、弟は彼女を作ることすら不満!?どういう理論でそうなるのですか!?」 床に正座をしている綾瀬兄にビシッと指をさして、醐留権は正論をぶちまけた。 理論のことを聞かれると何も答えられず、綾瀬兄は黙って俯いていた。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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