1/10ページ目 夏休みが明けてもまだまだ蒸し暑い月曜日の、昼休み。 「へえ、醐留権先生ってお兄さんがいるんですか。イケメンな弟を持つ兄は幸せですよね!……あっ、もちろん僕もですけど!」 綾瀬兄は職員室にて、醐留権先生と談笑していた。 「………………。」 はずもなく、醐留権はこの著しい鬱陶しさを完全にシャットアウトして無視を決め込んでいる。 あたかも自分が兄のことを話したように話しかけてきているが、醐留権先生は綾瀬先生に対してお兄ちゃんの話はいっさいしていない。 生徒の誰かから聞いたのだとしか思えないのだけど、いかんせん鬱陶しかった、何もかもが。 「てことは世間の法則的に、イケメンにはお兄ちゃんがいるってことなんですかね?だとしたら2年のあのプリンスにも、お兄ちゃんがいるんですねえ……」 何の返答も得られないままで、綾瀬兄は勝手に話を続ける。 世間というかF・B・Dの法則的に表現すると、“残念な兄を持つイケメンがたまに登場することがある”になる。 2年のプリンス、と聞いた時点でゾーラ先生もとい要先生は嫌な予感がした、彼女であるこけしちゃんが放っておけない話にしか思えなかったからだ。 「醐留権先生のクラスにいますよね?麗しの王子さま。あの子、あの最強のルックスで人を見下ろすのが天才的に上手いんですけど、ほんとにどこかの国の王子様なんですか?来日しているんですか?」 綾瀬兄は次に質問攻めへと入り、先輩から詳しく聞き出そうとした。 クラスを把握しているのに名前がまだわかっていないのは、生徒名簿を見ていないからなのか漢字の読みがわからないからなのか。 醐留権は嫌な予感がやはり的中して、やるせなくてデスクに眼鏡を叩きつけたくなった。 綾瀬兄の示している人物はどう考えても一人しかおらず、腐女子の彼女が確実に喜ぶ話になっている。 ちなみになぜ醐留権先生が綾瀬先生から逃げなくなったのかと言うと、数学の授業を終えると毎回必ず出待ちをされるようになったからだった。 男の後輩に毎回出待ちされている現場をこけしちゃんに見られようものなら、新たなる妄想の扉が開いてしまいそうで醐留権は心底ぞっとした。 ちょうど、颯爽と廊下を歩いてばかりいるのも面倒になってきた頃だったので、とことん邪険に扱うことにしてゾーラ先生はいよいよ逃げるのを止めたのだった。 端から見ても醐留権と綾瀬兄は、まったく、仲良しといった雰囲気ではなかった。 そのせいで職員室は、殺伐としていた。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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