1/11ページ目 「……なるほど。それで君たちは以前頼りになったことのある私に、暮中の説得役を頼みに来たのだな?」 職員室にて、演劇部員たちの話を一通り聞き終えた醐留権先生は頼みごとを要約して聞き返した。 綾瀬先生は今や学校のどこかに必ず存在する数学準備室は探索しておらず、ひたすら醐留権を追いかけているため躱すのがだんだん面倒になり、職員室に落ち着いたところ綾瀬先生からはめっきり追いかけられなくなった。 灯台下暗しとはまさに、このことである。 「そうなんです、お願いします……バスケ部には負けたくないんです……」 演劇部員たちは揃って、頭を下げた。 横科先生は自身にとって幸いなことに職員室にはおらず、項垂れなくて済んだのだった。 「しかしだな、暮中はもともとバスケ部に属しているだろう?バスケ部にようやく参加することができて彼もきっと喜んでいるはずだ。」 頭を下げられてもこればっかりは当然の成り行きとしか言い様がなく、醐留権も困った。 生徒から厚い信頼を寄せられている教師な故、演劇部員たちの行動も当然の成り行きだと思えたものの、力添えができないことはどうしても世の中には存在する。 「それに……私は彼にとって最も近い教師であると共に、最も遠ざけられている教師だからな……」 次に醐留権先生は、ぽつりと零した。 担任というポジションにいながら、彼女であるこけしちゃんがしょっちゅう腐的な妄想をするおかげで確かにかなり遠ざけられてはいる。 「えええええっ!?」 今の発言に、演劇部員たちは無性にドキドキした。 醐留権先生が悩んだ末に自ら導き出した、恋愛哲学のように受け取れたからだ。 「醐留権先生はもしや、薔さまに恋してらっしゃるんですか!?」 「なぜ君たちまでそういった解釈に及ぶんだ!?」 ハァハァしだした演劇部の皆さんは昂り、解釈が飛躍しすぎて到底理解できない醐留権は憤慨する。 でも、最も近いのに最も遠いという表現は、教師が生徒に片想いしている気持ちをポエミーに物語っていなくもない。 「君たちまで」ということは他にもそう捉えられるような言動を行っていたのかと、周りの先生方もなんだかドキドキしてくる。 あそこまで美貌や色気が罪作りな生徒なら、無意識のうちに男性教師が恋に落ちていたとしてもおかしくはなかった。 「まあ、生徒の頼みを無下にはできないからな……引き受けさせてもらうよ。」 「ありがとうございます!」 さすがに生徒の頼みを無下にはできなかったようで、醐留権先生は協力することにした。 報われない恋に苦しんでいるのに優しい……と演劇部の皆さんは感心しているが、こけしちゃんの世界ではばっちり報われているので感心ご無用だった。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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