1/14ページ目 醐留権先生の赤ワインの倍以上のペースで、屡薇は生ビールを飲んでいた。 お裾分けの品はきちんと携えてきてあるものの、悪酔いのおかげで手渡すのをすっかり忘れている。 ゾーラ先生はやけ酒に来たはずが、お目当てのものを手に入れられていないためかなり苛々している。 「えーと、どうしよう?握手してもらうには絶好の機会なんだけど、僕、屡薇には怒られたばっかりだしな……でも酔っ払ってるみたいだから大丈夫かな……」 ふと、醐留権と屡薇の隣の席で、誰かがぶつくさ言い始めた。 帰り支度をしている最中なのか、忙しない物音もしている。 「ゴルちゃん、今、俺の名前呼んだ?」 「呼ぶわけがないだろう。」 酒に酔っているため甘ったるくなった声で屡薇は問いかけ、眼鏡をくいっとさせたゾーラ先生は眉をひそめた。 今さらながら再び、ゴルちゃん呼びが気に入らなくなってくる。 ふたりのこの、やりとりの直後、 「あの……ちょっといいですか?」 いつの間にか勝手に御座敷に入ってきており口を開いた人物がいた。 声を掛けられるまで、ふたりはその存在にも気配にも全く気がつかなかった。 「ちょうどベンツを見かけたのでついてきました、先日は優しくしてくださりありがとうございます!握手してください!」 醐留権の背後にて正座をしていた綾瀬は、片手を差し出しお辞儀をした。 一連の行動はホラーに値する。 「……君はもしや……」 「綾瀬!?お前なんでこんなとこにいんだ!?このやろう!」 深くお辞儀をされていると前髪の長さとか関係なく例のストーカーだと醐留権は気づき、生ビールのジョッキをダンとテーブルに置いた屡薇は激怒した。 一番顔というか全体像を見たくない奴がよりによって、隣の席で飲んでいた(正確にはストーカーしていた)とは。 「やっぱり、そこはスルーしてもらえませんか……?」 「当たり前だ!俺はお前を漆黒の闇に葬り去りたいんだよ!」 「えええ!?かっこいいこと言ってる、葬り去られたい!」 恐る恐る顔を上げた綾瀬はファンなこともあり、屡薇の怒号には堪らずキュンとした。 以前見たときとはどこか違うなとは思ったが、何れにせよ気味が悪いことに変わりはないのでゾーラ先生はどこが違うのかについては特に気に掛けなかった。 「知り合いか?」 「さっきから愚痴ってるやつ、こいつだよ!」 「どうりで……既視感を覚えるわけだ……」 醐留権は合点がいった、世界は広いようでいて狭いものだ。 自分が愚痴りたかった人物と、屡薇が愚痴っていた人物は同一人物だったのだ。 そもそも愚痴りたい内容が妙に一致していた。 「お前ちょっとこっち座れ!」 「え?でも僕ジョージが……」 「まあまあ、遠慮せず座りなさい。」 怒れる屡薇は隣の席を叩いて促し、ジョージを観たいので帰ろうとした綾瀬は念願叶って醐留権先生に握手をしてもらえた。 そのまま無理矢理手を引かれて、奥の席に座るしかなかった。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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