1/12ページ目 儚さは、謎深く、愛しさは、罪深い。 「ザザえもんはきっと、ピノ太くんさんと結婚しますね、これは……」 感無量のナナは、まじまじと原画のパネルを眺めた。 「おまえがそう言うなら、確かだろうな。」 彼女が見ているのはピノ太くんが意地悪をしてザザえもんを泣かせているシーンのため、どこにそんな確信を持てる要素があるのか甚だ疑問ではあったが薔はとにかく楽しそうにしているナナを見ていた。 意地悪で泣かせているのならまず、遥かなる確信を持って良いと思われる。 只今ふたりは、ふたりっきりワールド全開で例の“夏休みわくわくザザえもん原画ワールド展”デートに来ていた。 昨日は結局、天気雨からどしゃ降りの雷雨へと変わったが、今日は抜けるような青空が広がっていた。 「向こうにもたくさんあるぞ?」 「わあっ、すごい!」 原画というものを初めて見たナナははしゃぎつつも、ばっちり気づいていた。 でこぼこのパンフレットを抱えているのにぶら下げろとは命じられないし、さらなるでこぼこワールドを見つけて案内してくれる薔が、もう優しすぎてどうしましょう状態になっているのだ。 優しすぎる意地悪なのかと勘ぐってみたりしてしまうほど、彼は優しかった。 「あの、薔……」 「ん?」 繋いだ手を引かれて歩きながら、ナナは思いきって尋ねてみた。 「優しすぎるお熱でも出してしまわれたのですか?」 と。 それは熱を出すほうではなく下げるほうの薬がわりと持っている効果だよ。 「……ん?」 ちょっと首を傾げた薔は尋ねられている内容の意味はわかったようだった。 それでも、「あ?」じゃないところがまた優しすぎる。 「俺がおまえに対して優しくねぇ時が、今までに一秒でもあったか?」 「いいいえっ!ないです、それはもうないです!優しい!」 「だろ?」 「はいっ!」 むしろそう来ていただいて安心したナナは、昨日の出来事を憶い出していた。 雨の中で、自分を強く抱きしめている彼が、微かに震えていたことを。 いきなり抱きしめられてびしょ濡れになり、心配をしているからなのかときめいているからなのか心臓がドキドキして堪らなかった。 あのあとから、彼が優しすぎて困ってしまっている。 あの雨の中で何かがあったのだとしか、思えなかった。 薔の纏う雰囲気がどこか危うげにも感じられて、それが恐ろしいくらいに美しいのもナナを困らせる要因となっていた。 おかげさまでふたりっきりワールド全開なのにかなり目立っており(そうでなくとも目立つけど)、今日はナナのほうが見ないでくださいオーラを放っていた。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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