1/11ページ目 (うーん……思い出せない……) ナナは眉間にしわを寄せて、悩んでいた。 昨日見た夢の内容を事細かに思い出そうとしているのだが、生憎内容はこれっぽっちも詳しく思い出せなかった。 目覚めた瞬間に感じたあの、この上ない切なさに包まれた“薔が生きていてくれた喜び”は一体どこからくるものだったのだろう。 実際、彼は出逢ったときからずっと、時に危うく儚くなることもありはしたけれどずっと生きている。 それなのに、“生きていてくれたこと”に対して改めて喜びを感じるなんて、戸惑わずにはいられなかった。 ソファに座り、腕組みをして悩むナナは只今、夏休みの宿題をしている真っ最中だった。 「おまえをそんなに悩ませてんのはどの問題だ?」 「わあっ!びっくりした、いきなりかっこいいお声を出さないでくださいよ!」 「……断ってから出すにしてもいきなりには変わりねぇだろ。」 「それもそうです!」 キッチンから戻ってきた薔は彼女に優しく声を掛けたところ、めちゃくちゃびっくりされてちょっと不機嫌になった。 一緒にいるのだから、いきなり声を掛けることなんて日常茶飯事、というより彼の得意技だ。 あと、出すのも、色んな意味で得意技ですね。 断ってからとかいっさい関係ないやつですね。 「まあ、かなり悩んでるようだしな、息抜きでもしろよ。」 「えっ……?」 よくよく見てみなくとも彼は一枚の大きな白いプレートを手にしており、彼女の目の前、テーブルの上に優雅な手つきで置いた。 プレートには綺麗に重なったパンケーキが、ホイップとバニラアイスで可愛らしい白地の服を着て、ラズベリーとブラックベリーとブルーベリーの模様でお洒落をしていた。 至って簡単に彼は作っただけです。 「すごぉお!もんのすんごく、美味しそうではないですか!薔はいいお嫁さん」 「をもらうのは知ってる。」 感心ひとしきりのナナは思わず“薔はいいお嫁さんになりますよ”と口にしようとして、遮った彼が上手くまとめた。 きっぱりと言われたナナは照れて真っ赤になっているなか、薔はテーブルの横側のクッションに座る。 否応なしに彼女のほうが、目線は上になった。 「つうか、おまえはもう俺の嫁だろ……あと二年弱待たなきゃなんねぇのは事務的な手続きだけだ……」 「ほおおおお!?今一瞬、フォークがナイフに見えました…!かっこいい!」 パンケーキに添えてきたフォークを手にした薔は鋭く光らせ、彼の狂気に魅せられたナナはばか正直に感嘆した。 リビングには甘やかな匂いがしている。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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