1/11ページ目 奪い去られた心は、 自分自身でさえも奪い返すことはできない。 真依のストーカーこと綾瀬 一樹(かずき)は、最近では真っ先に彼女のアパートまであとをつけて帰るというところまでストーキング具合が進化していた。 綾瀬は最初のうちはいったん帰宅をした後に真依のアパートまで二時間ほど外から様子見に伺う程度(これでもじゅうぶんにストーカーだけど)だったが、同じ職場で働いているので容易くあとをつけて帰れるということに気づいてしまった。 真依がこけしちゃんに教えてもらうまでストーカーの存在に気づかずにいたのも、無理はないのかもしれない。 そしてこの日は、悪いほうへと進化したストーキング具合が、功を奏した。 (えええ!?) ストーカー行為をいざこれから始めるところの段階で、度胆を抜かれた綾瀬は青ざめた。 (高良先輩が、ストーカーらしき人物と歩いている…!) と。 言っておくがストーカーは紛れもなく君であって、真依が一緒に歩いているのはストーカーっぽい風貌をした立派な彼氏である。 「ねぇ、屡薇くん、頼むからちょっと離れて歩いてくれないかな?」 「やだよ!俺は真依さんを全力で守るんだから!」 「だったらせめて格好への配慮……」 「え?何か言った?」 真依はどうしても人目が気になり、彼が身につけているハットとサングラスとマスクを引っ剥がしてしまいたかった。 めげない、というか気にしない屡薇は何がなんでもくっついて歩きたがっている。 会話が聞こえない距離の端から見れば、真依が変な人に言い寄られているように見えなくもなかった。 (どうしよう!?110番!?) 綾瀬は慌てて可愛くデコレーションしたスマホ(ロボットのほう)を、手作りバッグから取り出した。 そうこうしているあいだに、ふたりとの距離が開く。 (でも、僕の家……高良先輩とは真逆のほうだからな、僕も怪しまれたらどうしよう……任意同行とかになったら今夜のジョーばんが観れないし……) 冷や汗をかいている綾瀬は、己の怪しさを案じ110番をする前にぴたりと指を止めた。 ストーカーなのに客観的視点から自分を見られるのはとても良いことです、というか勘違いと言えども好きな人の身の危険より自分の怪しさとジョージを第一に優先するあたり、綾瀬くんは特にヤンデレではないと思われる。 ちなみに前髪はさらに伸びており、歩道に震えながら佇むこちらもかなりホラーだった。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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