1/12ページ目 今日は土曜日で、半日だけの登校日、のはずだった。 ところが、目を覚ましたナナはとてもではないが、学校には行かれない状態になっていた。 がんじがらめとはこのことか、からだじゅうを鎖でベッドへと縛りつけられていたのだ。 ゆびさきにまで鎖は絡みつき、微塵も動かすことができない。 暗いようでいて眩しく、眠いようでいてまだ覚醒を待っている、そんな不思議な感覚が躰を取り巻いていた。 「あ……あの、これは、どういうことですか……?」 しっかりとカーテンが引かれた薄暗い部屋のなか、息をすることも難しかったが、ナナは微かな声で問いかけていた。 「縛りたかったから縛っただけだ……」 自分の存在より遥かに圧倒的でいて、何よりも儚く見える薔はくすくすと笑う。 彼は身動きひとつ取れない彼女を、ベッドに腰かけて静かに妖しく見下ろしていた。 ナナは悟る、ほんとうの意味で縛りつけられているのは、心のほうだと。 どこにもなんにも、恐怖や不安はなかった、むしろ心底安堵していた。 これで、この先どんなに悲しい夢を見ても、誤って彼から離れてしまわずに済む。 ずっとこんなふうに、縛りつけてほしいと願っていた。 「学校は……どうしますか……?」 もはや学校なんてどうでもいいと思いながら、ナナは彼の声が聴きたくて甘えた声を投げ掛けた。 「別に……俺ももう行かねぇから、気にすんな。」 落ち着きはらって返した薔の右手で、何かが美しい煌めきを見せる。 一瞬、それは銀色の薔薇のように視界をかすめたあと、鋭いナイフへと姿を変えた。 ナナは呼吸も忘れて、魅せられる。 鎖が肌に食い込み、心地よい痛みを刻みつける。 首筋に当てられたナイフはひんやりとした感触をいっさい持っておらず、あたたかくて目眩を覚えた。 「それじゃあナナ、……始めようか……」 優しく微笑んだ薔はゆっくりと、刃を滑らせる。 ナナは瞳を閉じて、彼の狂気に身を委ねた。 「…――――――今日はなんか、いい夢でも見てんだろうな…」 土曜の朝、先に目を覚ました薔はまだ眠っているナナの首筋をゆびの背で撫でていた。 少し下まで滑らせて、昨夜つけた痕にもそっと触れてみる。 彼は無論、彼女がどんな夢を見ているのか知らない。 けれどおそらく、それは彼のほうが何度も夢に見ているものだった。 くすっと笑った薔はちょっとだけ強く、ゆびさきを柔肌へと食い込ませた。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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