※※第290話:Make Love(&Sex aid).35
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 お昼休憩を挟み、劇はいよいよ午後の部へと突入していた。
 しかも今現在繰り広げられているのはまさに、ナナたちの高校の演劇だった。
 お菓子で腹を満たしたナナ母は安心して鑑賞していられるが、キスシーンでもあったらどうしようと思っているナナ父は気が気ではない。

 (……どうしよう……)
 そして、審査員のおばさまやおじさま方も、どうしよう……と思いながらごくりと息を呑んだ。

 (なんかもう、妊娠しちゃいそう……)

 と。
 おばさまだけならまだしもおじさまの琴線にもばっちり触れているようだ。
 なにかこう、甘くて危険なものが、お腹の奥まで響いてしまって困っているようだった。




 『…――――――私は今でも、貴女に初めて出逢った時に奪われた視線の熱を……憶えています。』
 マスカレード的な代物ではなくきちんと顔全体が隠れる仮面を被った、主演の騎士は告げた。
 物語の冒頭から、彼は醜男なせいで仮面を被っているのだというニュアンスを伏線として、かなりにおわせてきてはいる。

 『まあ……嬉しい……、貴方はもしや、クリースチャン?』
 かろうじて棒読みではないロクサヌ姫は、感嘆の声を上げた。
 クリースチャンはクリースにちゃんづけをした呼び方だと未だにヒロインは思っているが、クリースチャンとは主演の騎士の名前ではなく地味剣士箕島の名前である。


 (いや明らかに声とか話し方が、違うだろ……あと頭身とかも……)
 心でツッコミを入れた観客の皆さんは、この作品は『シラノ・ド・ベジュラック』のパロディだとわかっていた。
 シラノ・ド・ベジュラックは本当に大まかに説明してしまうと、“中身は申し分のない醜男”と“中身は残念な美男子”という対極もいいところの二人が手を組み、絶世の美女を落とすというような名作中の名作の戯曲でございます(美女は何だかんだで美男子が好き)。

 それをわかった上で観ているとこのパロディ作品は、良いところをどっちも兼ね備えているひとが主演を演じているように思えてならなかった。
 相手役の箕島くんが、良いところをどっちも兼ね備えていないことからしても、なんとなくそう思えてしまう。



 「ねぇ、あのひとめちゃくちゃイケボだよね……」
 「うん、さっきから声がヘンなとこに響いちゃって困ってる……しかも体型、モデルみたいだし……」
 ひそひそと囁きあったりしている場内の皆さんは、仮面を取ったら正真正銘のイケメンならば少女漫画の世界みたいだなと、もはやドキドキしていた。
 内容は正直なところ、ちょっとよく頭に入ってこない。


 (相変わらず美味しそうね……)
 仮面をつけていても隠しきれていない美しさにナナ母は感心し、ナナ父は娘が台詞を忘れたりはしないかどうかについてが気がかりで劇の鑑賞どころではなくなっている。

 つまるところ、どの層にも内容はあまり重要視されていなかった。

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