※※第286話:Make Love(&Blind).175
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 個包装になっている歌舞伎揚げの袋をビリビリと破り、ナナ母は電話を取る。
 危なっかしいため薔はナナから麦茶のグラスを奪い取る。


 「はい。」
 『OH〜!ハニーサ〜ン、お久しぶりデース!』
 電話の相手はハリーで、ナナ母がザクザク言わせていることにはお構いなしに喧しい声を張り上げた。
 受話器は予め耳もとから一定の距離を置かれており、娘夫婦(ではまだないけど)にもハリーの喧しい声は聞こえている。

 「いつ聞いてもハリーさんの声は鬱陶しいわね、声の鬱陶しさでは圧倒的に雅之より上よ?」
 『そんな〜、照れマース!』
 ちっとも褒められていないのだけど勝手に照れたハリーは、喜んでいる。
 ナナ父が聞いたら号泣すると思われる。

 『じつはデスネ、ハニーサンにご報告がありマシテ……』
 そのうちに、ますます照れたハリーはご報告とやらを打ち明けようとした。
 ここらへんから声はMOJIMOJIし始め、ナナと薔には聞こえていなかったがそもそも聞いていなかった。

 そして、肝心のハリーの報告を聞くことなく、ナナ母は電話を切った。

 「おめでとうハリーさん。」

 と、きっぱりと言い残して。
 ハリーは何か言いかけたものの、言わせてもらえる隙がなかった。
 かなり久しぶりに胡散臭く声でのみ登場したのに。








 「生まれてくる子供は落ち着いているといいわね。」
 ナナ母は歌舞伎揚げを頬張りながら、テーブルに戻ってくる。

 「え?どういうこと?」
 ナナはよくわかっていないみたいだが、電話を切る際の一言で薔には全部わかっていた。
 キョトンとする彼女が可愛すぎて、ほっぺたをつねりたくなっている。

 「葛篭さんに赤ちゃんができたみたいよ?」
 麦茶をゴクゴクと飲んでから、ナナ母は口にした。
 あまりにも喧しくて途中で電話を切ったナナ母は、ハリーの様子から見事に察したようだ。
 それに、めでたい報告ならまずは国際電話で両親にしなさいという心意気で、肝心の部分は聞かずに切ったということもある。

 とにもかくにも、やることはやった結果です!




 「えええええええええ!?ほんとうに!?おめでとう、葛篭先生!」
 素直に喜んだナナは隣の彼氏を見ると、ばか正直に言ってしまった。

 「先を越されちゃいましたねっ!」











 このときの薔は下手をすれば母親の前で強引に彼女に濃厚なキスをするところで、娘の立派な成長に歓喜したナナ母はつい歌舞伎揚げを袋ごと握り潰した。
 ヴァンパイアでもナナはやはり、彼に孕ませてもらいたくて仕方がないようだ。

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