※※第276話:Make Love(&Sooth).168
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 「だからナナには、あんたと一緒にいた時の記憶がねぇのか……断片的に思い出してはいるみてぇだが、普通に考えて、意図的に殺したならわざわざ忘れる必要も忘れさせる必要もねぇよな?」
 薔は鋭く竜紀を見据え、打ち明けられた話には動じることなく言葉を返した。
 ただ、あまりの愚問に、隠していた情感が隠しきれなくなっている、竜紀に向けるものではなくひたすらにナナへと向けられるものが。

 「“結果的に”、そうなっただけだろ?純粋な優しさを利用されたナナは、思いもしなかったその結果を抱えきれなくなって記憶を手放した……違うか?」











 「よりにもよってどうして、あの女だったんだよ!?」
 いきなり逆上した竜紀は力に任せて、薔の背後に佇む木の幹を掴んだ。
 質問に答えを返せない取り乱した様子が、核心を突かれたと無言で物語っている。
 「ナナしかいなかったから、」
 答えを読み取った薔は男の動揺に反し、過去も真実も振り切る力強さではっきりと言い放った。

 「独り善がりじゃなく、俺たちは光も闇も共有しながら愛しあってる、他の誰かが入り込める隙間はどこにもねぇよ。」








 躊躇い触れずにいた竜紀は激昂し、悔しさから勢いよく薔の肩を掴むと首筋に咬みついた。
 木立がさざめき、夜の帳にいた鳥が一斉に飛び立つ。
 赤い血液はたちまち美しい肌を伝い落ち、浴衣にも鮮やかな色を広げていった。














 ――――――――…

 「……ん……?」
 違和感からか、ナナはおもむろに目を覚ました。
 止め処ない激しい快感にやられて途中から意識はないが、とにかく気持ちよすぎたことは憶えている。
 なのに、今は彼の気配が近くに感じられない。

 「薔……?」
 ぼんやりと体を起こした彼女は、まだ浴衣が乱れたままであることに気づき恥ずかしさで目が覚めた。
 拭いてくれてあるのはわかる、それなのに浴衣はまだ乱れたままなのがどう考えてもおかしかった。
 中には感覚がしっかりと残っていることから、時計を見なくても自分はそんなに長く眠ってはいなかったことを覚る。
 甘美な羞恥が押し寄せても、部屋を見回し薔の姿を探している。



 「おっ、お風呂……ですかね?」
 いそいそと浴衣を整えたナナは、ポジティブに捉えてみた。
 彼が一人で露天風呂に入っているのならちゃっかり写真を撮らせてもらおうと思い立ち、携帯電話(←フィーチャーフォンです)を手にすると窓辺へと向かった。

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